数学の「集合と命題」の分野は、複雑な計算が少ない代わりに、独自の用語や日本語の表現が多く登場します。ここでつまずいてしまう原因のほとんどは、用語の「正しい定義」と「視覚的なイメージ」が結びついていないことにあります。この資料では、つまずきやすいポイントを日常の具体例に置き換えて、直感的に理解できるように詳しく解説します。
正しいか、正しくないかが、誰が見ても客観的に一通りに決まる文や式のことです。数学の世界における「白黒はっきりつけられる主張」を指します。
多くの生徒が「正しいことだけが命題である」と勘違いしがちです。しかし、「完全に間違っていること」であっても、はっきりと間違っている(偽である)と言えればそれは立派な命題です。
命題が正しいことを 真(しん)、間違っていることを 偽(ぎ) といいます。数学における「◯」と「×」の代わりの言葉です。
変数 x などを含んでおり、その x に具体的な値を代入することによって初めて真・偽が決まる文や式のことです。中身が決まるまで判定を保留している「クイズの箱」のようなものです。
例えば、「x は 5 より大きい」という文は、これだけでは真か偽か分かりません(条件)。しかし、x = 10 を代入すると「10は5より大きい(真)」となり、x = 2 を代入すると「2は5より大きい(偽)」となるため、中身を決めることで命題に変化します。
ある命題が「偽(間違っている)」であることを証明するために突きつける、「成り立たない具体的な例(たった1つでOK)」のことです。「その主張は嘘だ!だってこれがあるじゃないか!」と言い返すための証拠です。
命題: 「x2 = 4 ⟹ x = 2」
解説: 2乗して4になる数は、x = 2 だけではありません。x = -2 も存在します。したがって、この命題は偽であり、反例は x = -2 です。
高校数学における最大の難所のひとつです。命題「p ⟹ q(p ならば q)」が真であるとき、主語をどちらにするかによって名前が変わります。
条件を満たす範囲 of 広さ(集合の大きさ)で考えると絶対に迷いません。必ず 「範囲の狭い(小さい)集合 ⟹ 範囲の広い(大きい)集合」 という向きの矢印が成り立ちます。
| 範囲が狭い(小さい集合) | 範囲が広い(大きい集合) |
|---|---|
| 十分条件(矢印の出発元) | 必要条件(矢印の受け先) |
日常の例:「福岡市に住んでいる」 ⟹ 「日本に住んでいる」
福岡市(狭い・十分条件)に住んでいれば、日本に住んでいると言うには十分。日本(広い・必要条件)に住んでいることは、福岡市に住むための前提として必要。
また、p ⟹ q と q ⟹ p の両方の矢印が同時に成り立つ(=集合の範囲がぴったり一致する)とき、これを 必要十分条件(ひつようじゅうぶんじょうけん) または 同値(どうち) と呼びます。
ある条件 p に対して、「p ではない」という条件を否定といい、記号では p(の上にバー)で表します。オセロの駒をひっくり返すように「それ以外のすべて」を指すイメージです。
日常会話の感覚と最もズレやすく、テストで狙われやすいポイントです。否定するときは、言葉だけでなく「かつ」と「または」も同時にひっくり返ります(ド・モルガンの法則)。
元の命題「p ⟹ q」の形を、ルールに従って機械的に変形させたものです。
| 名称 | 形 | 「福岡市」と「日本」をベースにした具体例 | 真偽 |
|---|---|---|---|
| 元の命題 | p ⟹ q | 「福岡市に住んでいるなら ⟹ 日本に住んでいる」 | 真 |
| 逆 | q ⟹ p | 前後をチェンジ:「日本に住んでいるなら ⟹ 福岡市に住んでいる」 | 偽 |
| 裏 | p ⟹ q | それぞれを否定:「福岡市に住んでいないなら ⟹ 日本に住んでいない」 | 偽 |
| 対偶 | q ⟹ p | チェンジして否定:「日本に住んでいないなら ⟹ 福岡市に住んでいない」 | 真 |
上記の表を見ると分かる通り、「元の命題」と「対偶」は、真偽(正しいか間違っているか)が完全に一致します。元の命題が真なら対偶も必ず真になり、元の命題が偽なら対偶も必ず偽になります(逆や裏は一致するとは限りません)。
元の命題「p ⟹ q」が直接証明しづらいときに、真偽が完全に一致する「対偶(q ⟹ p)」にすり替えて、そちらを証明する技です。
例えば、「n2 が偶数ならば、n は偶数である」を直接証明しようとすると、2乗して偶数になる数を数式にするのが困難です。そこで、対偶である「n が奇数ならば、n2 は奇数である」を証明します。奇数は 2k+1 と表せるため、これを2乗して奇数になることを示す方が圧倒的に簡単だからです。
自分の主張を通すために、あえて最初に「そんなわけない(主張の否定)と仮定しよう」とへりくだってスタートし、論理を進める中で「おかしなこと(矛盾)」を引き出すことで、逆説的に最初の主張が正しかったと認めさせる証明方法です。
「犯人はAくんだ。もしAくんが犯人じゃない(無実)と仮定しよう。しかし、そうすると現場に残されたAくんの指紋の説明がつかなくなり、矛盾してしまう。ほら、無実という仮定がおかしい。だからやっぱり犯人はAくんだ!」
数学では、「 は無理数であることを証明せよ」という超定番問題で大活躍します。「 が有理数(分数で表せる)であると仮定すると…」と進めていき、最後に矛盾を発生させて証明を完了させます。